« 2009年03月11日 | Top2009年03月13日 »

最新記事【2009年03月12日】

【薬物治療】・【医師との対話】・【セルフコントロール】の他に,うつ病の早期回復にあたって必要とされるのは,家族や患者さんと親密な間柄にある人による【サポート】=【思いやり】です。このような【サポート】に携わることになる人びとも交えて,患者さん=お医者さんとのコミュニケーションが図られるのが何よりのうつ病治療の手段ですが,第三者においては,【思いやり】が高じて,うつ病に対する誤解もなされているところです。本項では,うつ病患者さんを【サポート】するえでの注意点をみてまいりましょう。

まず第一に,しばしば耳にするところでもありますが,「頑張って」をはじめとする「励まし」は,「じっくり焦らず」を念頭に置いてうつ病治療にはそぐわないものです。とくに「頑張り屋さん」がうつ病を発症した場合には,「頑張りたいのに頑張れない」であるとか,「どう頑張ってよいのかわからない」という抑うつ感のスパイラルに陥りかねません。【サポート】で必要とされる【思いやり】は,「じっくり焦らず」,「温かく見守る」ことが一番です。

第二に必要とされる【思いやり】は,患者さんからなるたけ【思考や決断の機会を取り除く】ことです。過度・早急の思考や決断で心が疲弊するのが,うつ病に至る経路の一つだったのですから。ですから,家族なら「今夜はすき焼きにしましょう」,恋人なら「今日は…して遊ぼう」といったように,患者さんに同意を求めるような提案をして日々のコミュニケーションを成り立たせることが大切です。ただし,患者さんには,決断を迫られる機会はどうしてもやって来ます。休学・休職などが典型的な例です。その際には,急がせず,【決断の時期をゆっくりと待つ】ことが周囲の人ができる【思いやり】です。

第三に,患者さんの【生活上の負担を軽減する】ことです。うつ病にかかりやすい人には,真面目・几帳面・勤勉な性格の方が多く見受けられます。とくに,主婦の患者さんの場合には,無理を強いて家事・育児を頑張ってこなそうとして,ますます病状を悪化させることが十分に考えられます。日々のコミュニケーションのなかで上手に負担を分担・軽減するよう心掛けてください。

第四に,【外出や運動を無理強いしない】ことです。よく「心と体のバランス」を引き合いに出して,「心が疲れるのは,体が疲れていない証拠」として,運動を勧めるご家族もいらっしゃいますが,【薬物療法】中であれば,お薬が「体のバランス」を「じっくり焦らず」調整しているところなのです。まずは,【休息】を一番に考えて【サポート】をすることが求められます。

第五に,【抗うつ剤は決められたとおりに服用させる】ことです。周囲の方々,あるいは患者さんご本人におかれては,「薬に頼りがちになるのでは?」であるとか,「副作用が心配」という不安が生じるところですが,【薬剤療法】は専門家によって綿密に練られたスケジュールで行われるものです。また,本節第三項でも申し上げましたように,【次世代抗うつ剤】とされる【SSRI】及び,【SNRI】は,懸念すべき副作用も抑えられるように開発されたものです。したがって,うつ病の早期回復に向けては,医師の指示をしっかりと守らなければなりません。

最後に,冒頭の内容にいまいちど立ち返りますが,【サポート】をする周囲の方々も,受診に同席してあげるということです。たしかにうつ病の「診断」自体は,症状をある意味「データ化」し,[II. 2]で解説した【DSM-IV】が設定する基準を用いて判断が下されるものです。しかし「治療」で必要とされるのは,患者ご本人及び周囲の方々から寄せられる「情報」の他にありえないのです。できる限りの「情報」を蓄積することで,医師は初めて的確な処置を施すことができるのです。また,治療に向けた情報の共有も図られることになります。【三つ巴のコミュニケーション】が【薬物療法】の効果を最大限に発揮する契機となる次第です。

以上,本節では,実際のうつ病の治療にあたって必要とされる基礎知識と注意点について述べてまいりました。次に,うつ病を巡る医療・社会制度について節を設けることとしましょう。

うつ病治療において患者さんご本人の【セルフコントロール】が求められる最後の点は,【生活環境の変化に敏感になる】ということです。生活に大きな変化があっても,流されずに【マイペース】で【ゆったり】と安息できるように生活を構築する必要があります。

ここで特記すべきは,うつ病の症状に悪影響を及ぼしかねないのは決してネガティブな変化に限られないということです。うれしいことが起こっても,そのこと自体は,心と体,即ち【うつ病発症のメカニズム】[II. 7]及び,[II. 8], についてお話しした内容に照らし合わせれば,【セロトニン】及び,【ノル-アドレナリン】といった脳内の神経伝達物質の分泌に影響を与えます。【薬物療法】では,お薬でこの分泌量を調節しているわけですから,喜怒哀楽を問わず,感情の変化は心と体に一定の負担をかけることになるのです。したがって,生活環境の変化及び,それによる感情の起伏があった場合には,担当のお医者さんに報告するのが一番です。

以上が,うつ病治療に向けて,患者さんご本人が心掛けるべき【日常的なケア】の内容となります。続いて問題とすべきは,患者さんを【サポート】する家族や親密な間柄にある人に向けての注意点です。次項に移りましょう。

うつ病の【薬物療法】と並行して,患者さんご本人が日常的にケアしなければならないのは,【休養】の他にも様々な事柄が挙げられます。【セルフコントロール】ともいうべき領域です。

まずは,【性格・気質の改善】です。うつ病に陥りやすい性格・気質については,[I. 9]で紹介したように,【真面目・勤勉】・【几帳面者・完全主義者】・【自分主義】・【柔軟性の欠如】・【自信の欠如】・【感情表現が不得手】といったキーワードが代表的なものとなります。もちろん,先人が「三つ子の魂百まで」と申したように,うつ病治療において「性格を治す」,というのは誤謬があるかと思われます。ですから,何よりもまず自分の【自分を知る・見つめ直す】ということが求められます。

上記のキーワード群は,一見するとネガティブな「性格・気質」を表したものといえるでしょうが,誰しも歳を重ねるにつれ,若い頃は尖がっていた「性格・気質」に年輪を重ね,老獪に立ち回るようになるものです。その際には,常に自らの性格・気質の自己分析が行われているはずです。同じように考えてみてはいかがでしょうか。加えて,このような「人生の過程」というほどではございませんが,うつ病の治療も比較的長期間を要することを逆手に取って,治療を自らのますますの成長とセットにして,「焦らずじっくり」構えてみるのが何よりである,と筆者は考えます。

そのようにして,患者さんご本人固有の年輪,即ち培われてきた「性格・気質」に少しそぐわない行動を意識的にしていみるというのがよいでしょう。例えば,仕事を多少【いい加減に】済ませてみる,または仕上がりまでの時間に【ゆとり】を持たせる,といったことが挙げられます。それから,やるべきことの【優先順位】を設定するということ。何故か,回避してしまいがちだった大切な仕事から片付けていくのです。加えて,その日のうちに完成しなくても,次の日にまわせばよい,というぐらいの心持でいることが重要です。さらに,問題が生じたときには,【抱え込まない】ことです。このことは,【性格・気質の改善】とも密接に関係してきます。つまり,【自分の限界をよく理解する】ことなのです。独りよがりになって却って,作業の成果や効率を貶めるよりも,他人と情報・課題を共有したほうが,会社・家族にとっても利益を生み出しうることなのですから。

また,【他人の評価を気にしない】ことも大切です。といっても,人の目は誰しも気になるものです。ですから,不必要に憶測のスパイラルに陥らないよう心掛けることが大切です。「他人からの評価を知る」=「自分を知る」ためにも,隣人・同僚・家族とのコミュニケーションは不可欠であるといえましょう。

最後に一点注記しておきたいのが,【生活環境の変化に注意する】ことです。項を改めましょう。

うつ病…怖くない病気です

[はじめに]

この度は,【うつ病】をテーマにお話をします。みなさまは,【うつ病】,と聞いてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。何か奇異なもの,延いては社会生活にそぐわないものとお考えの方も多いのではないでしょうか。確かに一昔前までは,「うつ病」は,医学的言説においてさえ非常にネガティブな,扱いにくく,確固たる「輪郭」をもたないものとされてきました。「うつ病は治らない」,であるとか「怠惰」など「個人の資質に帰せられる」といった言説が,医師の側からも発せられていたのは事実です。逆にいえば,このように社会全体が「うつ病」に「神秘性」を付与したことは,患者さん自らが「うつ病」を逆手にとり,自身を「特別な心の弱者」として,殻に閉じ込もってしまうような事態をも引き起こしていたといって過言ではないでしょう。

今この現在において,即ち本稿で問題とされるうつ病は,一昔前の「うつ病」とは異なるもの,延いては名称を変えたほうがよいもの,と筆者は考えます。というのは,普段の社会生活を営むうえで,誰しもが避けられない,「心と体の総合的な失調」が件のうつ病だからです。「うつ病は心の風邪」ともいわれますが,うつ病は,誰もが発症する可能性を秘め,また処置の仕様が確立されている病気なのです。今や,このうつ病は,医学の領域において事細かに「輪郭」が与えられている一途にあります。その一方で,社会的なケアという面では,制度的な枠組みが未だ整っていないというのが現状です。この社会的な受け皿を構築するにあたって必要とされるのは,何よりもまず,うつ病に対する社会的認識の改善です。このことを切に感じ,筆を執った次第です。

本文では,具体的にまず第I節で,うつ病発症の契機となりうるような症状の事例を挙げてまいります。続く第II節では,第I節の事例に即して,医学的に定義されたうつ病の「輪郭」を明示します。近年耳にする「うつ病は治る」という言説はいささか誤謬はあるものの,風邪から糖尿病などにいたるまでの病気と同じように,要は病状の程度に応じて処置の難易如何があるということが明らかになるでしょう。第III節では,実際の治療にあたって,診断から治癒までの経過を,患者さん及び,周囲の方々への注意点とともに整理します。第IV節で問題となるのは,うつ病を巡る医療・社会制度の実態です。家族のために,大切な人のために,うつ病患者さんが積極的に医療を受けることができるような受け皿の拡充が,今後の課題として立ち現れてくるでしょう。この課題を達成するうえで不可欠なのは,何よりも社会全体がうつ病に対して無知であってはならないということです。そこで第V節では,うつ病の社会的認知の促進に向けて,同病(に対する認識)の歴史的背景を探ることとします。

なお,【強迫性障害】は,うつ病とは異なる病気です。こちらについても,うつ病と同様の社会的な対応が迫られている領域ですが,本稿で扱うには紙幅の限界がありますので,言及するには至りません。ただし,今やインターネット上でも多くの情報が蓄積されていますので,是非ご覧頂きたいと思います。