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最新記事【2009年03月09日】

以前にもお話ししたとおり,今やうつ病はごくありふれた病気です。気兼ねなく精神科,心療内科,メンタルクリニックの門を積極的に叩くことが求められる時代です。逆にいえば,風邪から糖尿病に至るまでと同様,ほったらかしにしていてはいけないのです。

では,お医者さんを訪れた際,初診ではどのようなことがなされるのでしょうか。[II. 2]でお話ししたとおりですね。一般的には,【DSM-IV】=【精神疾患の分類と診断の手引第四版】を用いた問診によって,患者さんの症状を客観的に捉える作業が行われます。これについても注記したように,お医者さんの経験・能力を問わず普遍的にデータをとり判断を下すという点から,あくまで「診断」の段階にあります。

ここで,何かしらのうつ病の判断基準を満たすこととなると,治療に向けてのコミュニケーションが図られます。すなわち,患者さん本人を取り巻く,【DSM-IV】には記載されない事項が聞かれるのです。大雑把に整理すると以下のようになります。

【自覚症状】…どのような症状か?いつ頃気がついたか?症状にどのような変化があったか?
【契機】…思い当たる節はあるか?生活環境の変化があったかどうか?職場や人間関係のトラブルがあったかどうか?
【家族】…家族構成や,人間関係はどうか?
【来歴】…学歴や職歴はどのようなものか?生まれ育った経緯はどのようなものか?
【病歴】…過去にどのような病気を患ったことがあるか?
【生活習慣】…飲酒量や煙草の摂取量はどれくらいか?どのような薬を服用しているか?
【性格】…どんな気質が顕著にみられるか?

このような問診には,しばしば家族や親密な人間関係にあるものが同席します。医師側も,早期の原因究明と処置のために,このことを勧めています。また,[II. 6]でも紹介したように,生活環境ではなく病気が誘発するうつ病,というケースもありえますので,問診の結果に応じて,内科検査が行われることもあります。

このようにして初めて,医師はうつ病の判断を下すわけです。ここで注記すべきは,【慢性疲労症候群】という障害です。この障害は,慢性的な疲労倦怠感及び,免疫能力の不調を伴うもので,症状は似通ったものとはいえ,うつ病とは異なるものとして診断されます。うつ病の診断で【慢性疲労症候群】の診断が下されるケースは,比較的多いようです。

本節では,「うつ病を治す」と題して,具体的なうつ病の治療方法,ケアの仕方について知識を深めることにしましょう。キーワードとしたいのは,【三つ巴のコミュニケーション】です。医学的治療である以上,【薬物療法】は処置の大きなウェイトを占めるところとなりますが,その効果を最大限に発揮するためには,患者さんご本人の【日常的なケア】=【休養】・【セルフコントロール】と家族や緊密な間柄にある人の【思いやり】=【サポート】が不可欠になります。これらの治療体制に万全を期すために,「医師=患者=周囲の人」が情報を共有する必要があるということなのです。なお,うつ病の入院治療については,第IV節で特化してお話をします。

それでは,もう少し詳しくうつ病発症のメカニズムをみてみましょう。上に挙げたような肉体・精神への命令系統は,【神経】によって構成されています。その信号は電流として流されるわけですが,この信号は【神経伝達物質】や【ホルモン】によって仲介され送られているのです。

【神経伝達物質】とは,「神経終末から放出され,次の細胞を興奮させ,または抑制して情報を伝達する化学物質。アセチルコリン・アドレナリン・アミノ酸・ペプチドなど」『広辞苑第五版』のことです。【ホルモン】とは,「内分泌腺など特定の組織または器官から分泌され,体液と共に体内を循環し,特定の組織の機能にかわめて微量で一定の変化を与える物質の総称。脳下垂体ホルモン,甲状腺ホルモン,性ホルモン,昆虫の変態ホルモンなど」『同上』のことです。

さて,前項で挙げた「精神的活動」を脳が命令するうえで,一役買うのが【セロトニン】と【ノルアドレナリン】です。【セロトニン】とは,「化学名5-ヒドロキシ-トリプタミン。生理活性アミンの一種で,脳・脾臓・胃腸・血小板に多く含まれ,平滑筋の収縮,血管収縮,止血,脳における神経伝達,松果体でのメラトニン合成などに作用し,また脳の活動をたかめるといわれている。トリプトファンから合成される」『同上』です。【ノルアドレナリン】とは,「哺乳類の交感神経の末端から分泌される物質で,化学的にはアミンの一種。交感神経の支配を受けている細胞に神経刺激を伝達する働きをもつ,代表的な神経伝達物質。ノル-エピネフリン」『同上』のことです。

この【セロトニン】と【ノルアドレナリン】が脳内の【神経細胞】において放出されると,【受容体】と結合して信号が伝達されるという仕組みになっているのです。したがって,【セロトニン】と【ノルアドレナリン】の分泌量(濃度)が低減すると,私たちの意識においては,意欲がわかない,即ち抑うつ感となって現れてくるのです。ただし,これらの物質の分泌が低減する理由については,未だ解明されていないところも多くあります。

以上がうつ病発症のメカニズムです。次節以降では,具体的なうつ病の治療方法,ケアの仕方,さらにうつ病をめぐる医療制度についてみていきましょう。

うつ病…怖くない病気です

[はじめに]

この度は,【うつ病】をテーマにお話をします。みなさまは,【うつ病】,と聞いてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。何か奇異なもの,延いては社会生活にそぐわないものとお考えの方も多いのではないでしょうか。確かに一昔前までは,「うつ病」は,医学的言説においてさえ非常にネガティブな,扱いにくく,確固たる「輪郭」をもたないものとされてきました。「うつ病は治らない」,であるとか「怠惰」など「個人の資質に帰せられる」といった言説が,医師の側からも発せられていたのは事実です。逆にいえば,このように社会全体が「うつ病」に「神秘性」を付与したことは,患者さん自らが「うつ病」を逆手にとり,自身を「特別な心の弱者」として,殻に閉じ込もってしまうような事態をも引き起こしていたといって過言ではないでしょう。

今この現在において,即ち本稿で問題とされるうつ病は,一昔前の「うつ病」とは異なるもの,延いては名称を変えたほうがよいもの,と筆者は考えます。というのは,普段の社会生活を営むうえで,誰しもが避けられない,「心と体の総合的な失調」が件のうつ病だからです。「うつ病は心の風邪」ともいわれますが,うつ病は,誰もが発症する可能性を秘め,また処置の仕様が確立されている病気なのです。今や,このうつ病は,医学の領域において事細かに「輪郭」が与えられている一途にあります。その一方で,社会的なケアという面では,制度的な枠組みが未だ整っていないというのが現状です。この社会的な受け皿を構築するにあたって必要とされるのは,何よりもまず,うつ病に対する社会的認識の改善です。このことを切に感じ,筆を執った次第です。

本文では,具体的にまず第I節で,うつ病発症の契機となりうるような症状の事例を挙げてまいります。続く第II節では,第I節の事例に即して,医学的に定義されたうつ病の「輪郭」を明示します。近年耳にする「うつ病は治る」という言説はいささか誤謬はあるものの,風邪から糖尿病などにいたるまでの病気と同じように,要は病状の程度に応じて処置の難易如何があるということが明らかになるでしょう。第III節では,実際の治療にあたって,診断から治癒までの経過を,患者さん及び,周囲の方々への注意点とともに整理します。第IV節で問題となるのは,うつ病を巡る医療・社会制度の実態です。家族のために,大切な人のために,うつ病患者さんが積極的に医療を受けることができるような受け皿の拡充が,今後の課題として立ち現れてくるでしょう。この課題を達成するうえで不可欠なのは,何よりも社会全体がうつ病に対して無知であってはならないということです。そこで第V節では,うつ病の社会的認知の促進に向けて,同病(に対する認識)の歴史的背景を探ることとします。

なお,【強迫性障害】は,うつ病とは異なる病気です。こちらについても,うつ病と同様の社会的な対応が迫られている領域ですが,本稿で扱うには紙幅の限界がありますので,言及するには至りません。ただし,今やインターネット上でも多くの情報が蓄積されていますので,是非ご覧頂きたいと思います。


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