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最新記事【2009年03月08日】

近年,うつ病について,医学的な研究がどんどんと進められているところです。もちろん,未解明の領域もなきにしもあらずですが,本項ではうつ病発症のメカニズムについて現段階明らかにされていることをお話ししましょう。

うつ病の引き金になるのは,人間関係や社会とのかかわりなどの生活環境の変化及び,各種疾患の罹病であるということはすでにお伝えしたとおりです。それでは,そのような引き金は,体のなかの「どこで」・「どのように」作用するのでしょうか。

おそらく脳が舞台になる,ということは想像に難くないところでしょう。まずは,脳の働きについて簡単に知識を得ておきましょう。脳の働きにも色々ございますし,現段階では解明されていない働きも多くあるところですが,脳が命令を出す相手を,ここでは大きく「肉体的活動」と「精神的活動」に分けて考えてみましょう。

まず,肉体的活動について。私たちが日々生活をするうえで,駅まで歩く,吊革を持つ,ペンを持つ,キーボード入力をする,箸をもつ,噛む,トイレに行く…と限りない動作をしています。この一つ一つの動作を司っているのが脳なのです。ですから,脳疾患に陥ると体が動かせなくなる,つまり【不随】となるわけです。

一方で,脳は精神的活動も取り締まっています。脳は,やる気,即ち【意欲】,【食欲】,【性欲】,【記憶】をコントロールしているのです。したがって,このコントロールが利かない状態になると,うつ病の諸症状が立ち現れてくるという仕組みになっているのです。

これまでは,人間関係や社会とのかかわりなどの生活環境に起因するうつ病についてみてまいりました。本項では,病気が誘発するうつ病について触れることにしましょう。

脳の病気がうつ病に直結しやすいといわれています。【脳腫瘍】や【脳血管障害】がその例です。また,【老人性痴呆】・【癲癇(てんかん)】・【パーキンソン病】によるうつ病発症も報告されています。

さらに,脳以外の疾患などによってもうつ病が発症しやすいといわれています。身近なところでは,【糖尿病】・【更年期障害】・【がん】が挙げられます。人口透析を受けている方にもうつ病発症のケースが報告されています。また,【甲状腺】の機能不全により,うつ病が発症するケースもあります。他には,【インフルエンザ】や【肝炎】などのウィルス性感染症がうつ病につながることもあるようです。また,術後の経過においてうつ病が現れることがあります。

とくに,病気に起因するうつ病は,体の機能不全が根本的な契機となっていますが,患者さんは精神的にもプレッシャーを感じているのが実際です。ですから,よりよいコミュニケーションと綿密なケアをとおして処置が講じられることが求められます。

さて,うつ病のカテゴリーについては,以上にみたとおりです。本節では,最後にうつ病発症のメカニズムについて抑えておきましょう。

私たちが生活を営むこの社会には,不特定多数のうつ病予備軍が控えているようです。そのことは,医学的タームとはまた違って,以下に紹介する「…症候群」のような社会的に通用している言説のなかに見出すことができます。

例えば,【燃えつき症候群】。真面目な性格が災いしてか,とにかく懸命に仕事に打ち込み,心や体にストレスをどんどん溜めていくと,いつしか突然気力を失ってしまうというものです。第I節では,会社員Aさんが好例ですね。仕事だけでなく,家事に奔走した主婦Dさんにも同じことがいえますね。ひょっとすると受験勉強を頑張ったEさんにもこのような症候がみられたかもしれません。

【サンドイッチ症候群】というのは,上司と部下に「板挟み」にされて,ストレスを溜めてしまい,延いてはうつ病を患ってしまうという中間管理職特有の症候であるとされています。まさに,会社員Bさんのケースです。

【空の巣症候群】は,子どもが独立したり,結婚して家を離れたため,親が虚無感にとらわれてしまうというもの。典型的に主婦に現れるものとされています。Cさんの例にもありましたね。枠を広くすれば,ご老人Hさんにも適う症候であるといえましょう。

第I節では,事例を挙げることができませんでしたが,他にもうつ病予備軍を形成する契機がございます。まずひとつめに,【テクノ不安・テクノ症候群】。これは,ますます進化する電気機器や技術(携帯電話だとかPC上でのドキュメント・ピクチャー処理などですね。部屋にテレビ・ステレオ・エアコン・インバーター等々のリモコンが鎮座しているだけでも不安になる方がいらっしゃるとか。)に自らの適応力が追い付かず,そこからくる不安感がうつ病につながるというものです。最後に,【引越しうつ病】について。典型的なのは,ようやく新天地にマイホームを手に入れたにもかからわず,当地に馴染めずストレスをため込んでしまうという例です。

これらの通俗的な「症候群」をみるだけでも,うつ病とは,ごく当たり前の生活上のトラブルに即した,ごく当たり前の心と体の不調に過ぎないということが分かりますね。ただし,うつ病を楽観的に捉えてよいというのは,「全てのうつ病が簡単に治る」という意味においてではなく,あくまで他の病気と同様に,病状の重さ軽さはあれど,「対処を講じうる」という意味において理解されるべきものであるということです。他の病気と同様に,苦しんでいる方も沢山いらっしゃるということです。ここで一つ知っておきたいのは,普段の生活だけでなく,病気に起因するうつ病もあるということです。項を改めましょう。

うつ病…怖くない病気です

[はじめに]

この度は,【うつ病】をテーマにお話をします。みなさまは,【うつ病】,と聞いてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。何か奇異なもの,延いては社会生活にそぐわないものとお考えの方も多いのではないでしょうか。確かに一昔前までは,「うつ病」は,医学的言説においてさえ非常にネガティブな,扱いにくく,確固たる「輪郭」をもたないものとされてきました。「うつ病は治らない」,であるとか「怠惰」など「個人の資質に帰せられる」といった言説が,医師の側からも発せられていたのは事実です。逆にいえば,このように社会全体が「うつ病」に「神秘性」を付与したことは,患者さん自らが「うつ病」を逆手にとり,自身を「特別な心の弱者」として,殻に閉じ込もってしまうような事態をも引き起こしていたといって過言ではないでしょう。

今この現在において,即ち本稿で問題とされるうつ病は,一昔前の「うつ病」とは異なるもの,延いては名称を変えたほうがよいもの,と筆者は考えます。というのは,普段の社会生活を営むうえで,誰しもが避けられない,「心と体の総合的な失調」が件のうつ病だからです。「うつ病は心の風邪」ともいわれますが,うつ病は,誰もが発症する可能性を秘め,また処置の仕様が確立されている病気なのです。今や,このうつ病は,医学の領域において事細かに「輪郭」が与えられている一途にあります。その一方で,社会的なケアという面では,制度的な枠組みが未だ整っていないというのが現状です。この社会的な受け皿を構築するにあたって必要とされるのは,何よりもまず,うつ病に対する社会的認識の改善です。このことを切に感じ,筆を執った次第です。

本文では,具体的にまず第I節で,うつ病発症の契機となりうるような症状の事例を挙げてまいります。続く第II節では,第I節の事例に即して,医学的に定義されたうつ病の「輪郭」を明示します。近年耳にする「うつ病は治る」という言説はいささか誤謬はあるものの,風邪から糖尿病などにいたるまでの病気と同じように,要は病状の程度に応じて処置の難易如何があるということが明らかになるでしょう。第III節では,実際の治療にあたって,診断から治癒までの経過を,患者さん及び,周囲の方々への注意点とともに整理します。第IV節で問題となるのは,うつ病を巡る医療・社会制度の実態です。家族のために,大切な人のために,うつ病患者さんが積極的に医療を受けることができるような受け皿の拡充が,今後の課題として立ち現れてくるでしょう。この課題を達成するうえで不可欠なのは,何よりも社会全体がうつ病に対して無知であってはならないということです。そこで第V節では,うつ病の社会的認知の促進に向けて,同病(に対する認識)の歴史的背景を探ることとします。

なお,【強迫性障害】は,うつ病とは異なる病気です。こちらについても,うつ病と同様の社会的な対応が迫られている領域ですが,本稿で扱うには紙幅の限界がありますので,言及するには至りません。ただし,今やインターネット上でも多くの情報が蓄積されていますので,是非ご覧頂きたいと思います。


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