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最新記事【2009年03月07日】

以上が【DSM-IV】による【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)の診断基準です。これはあくまで「診断」の利便性を考えたものといえましょうか。つまり,医者の能力・経験を問わず,まずは症状をデータ化できるということです。国際的に【DSM-IV】が用いられている所以です。ただし,実際の治療の段階においては,患者さんを取り囲む生活環境・家族・社会や,患者さんの来歴をもふまえる必要がありましょう。この点は,ある種「カウンセリング」といってもよいところで,「カウンセラー」の経験と能力,延いては人間性が問われるところとなるといえばよいでしょう。

前項から本項にかけては,医学的なうつ病の診断基準を整理しました。第I節の事例からいきなりここに飛んでいらした方は,ちょっと面食らったかもしれませんね。ただし,このように症状が医学的にも体系化されているからこそ,対処の道が開けているということなのです。本稿の結論を急ぐようで恐縮ですが,糖尿の定期診断のように,延いては心と体の総合的な定期診断のために,病院の精神科やメンタルクリニックに赴くことは,最早奇異なことではなく,むしろ自らのため,さらには大切な人のためにも講じられて然るべきことなのです。

逆にいえば,紹介した事例をみてもわかるように,うつ病の症状はごく日常的なものあり,決して奇異なものではないことは自明ですね。「いくらでも寝てしまう…」などはむしろ,普段の笑い話の種にさえなっていることでしょう。ですから,いまやうつ病とは,昔の「うつ病」と全く異なる,むしろ病名を変えるべきものとして捉えるべきものなのです。つまるところ,うつ病は,はっきりとした「輪郭」をもち,ごく当たり前の生活で生じうると気楽に考えればよいのです。そして,処置は可能である,と。ところで,上記の医学的な判断基準とはまた別に,事例に応じて社会的に通用している症状の呼称があるようです。大変興味深いので,項を改めてぜひみてみましょう。

それでは,続いて【DSM-IV】による【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)の判断基準を整理しましょう。体系化すると以下のとおりです。

イ…以下に挙げる症状九点のうち,第一点もしくは第二点を含む五点以上が並行して二週間の間に現象する。
  1…自覚症状もしくは,医師や家族など他者の観察に基く抑うつ気分が,終日蔓延。
  2…終日もしくは,連日における興味・関心・喜びの喪失・減退
  ※上記一点を含む以下四点以上に該当すると【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)の判断基準を満たす。
  3…著しい体重の増減もしくは,食欲の増減。(食事療法適用中を除く)
  4…ほぼ連日の不眠もしくは,睡眠過多。
  5…ほぼ連日の精神衝動性の焦燥もしくは,制止。
  6…ほぼ連日の易疲労性もしくは,気力の減退。
  7…ほぼ連日,自らを無価値な存在として感じたり,過度の罪悪感に駆られる。
  8…思考力・集中力の減退。判断能力の低下・喪失。
  9…死に関する反復的な思考。計画を伴わない自殺願望。明確な計画を伴う自殺企図。

ロ…症状が【混合性エピソード】(=【双極性障害】=【躁うつ病】)の基準を満たさない。

ハ…症状が社会的領域における機能を低下させている。または著しい苦痛を伴っている。

二…薬物使用や投薬などの体外的作用による症状ではない。

(ホ…死別反応における症状は判断に難を要する。特徴的なケースは,愛する者を失った後,症状が二か月以上続くもしくは,顕著な機能不全。病的に,自らの存在を無価値と感じたり,罪悪感を抱く。自殺願望。)

以上が【DSM-IV】による【気分変調性障害】(気分変調症)の判断基準の要旨です。この【障害】は,従来は【抑うつ神経症】や【神経性抑うつ】と呼ばれていました。同様に,【軽症うつ病】というのも,いうなれば「一昔前」の呼称で,その診断は「【軽症うつ病】は病気ではないから」、「治療は必要ない」、さらには「治らない」といった言説を伴っていたのです。つまり,【DSM-IV】の導入は,このような医学上のパラダイム転換とも連動していたともいえましょう。

この動きのなかで,軽度のうつ病にも様々な「輪郭」が与えられるようになりました。例えば【特定不能のうつ病性障害】=【抑うつ関連症候群】です。【手引第四版】の改定版である【DSM-IV-TR】では後者の呼称が用いられているとのことです。【小うつ病性障害】(小うつ病エピソード)・【反復性短期抑うつ障害】などがこれに含まれますが,注目すべきは,【月経前不快気分障害】です。生理的な作用に基づくうつ病の定義もなされるようになったのです。憶測の域を越えませんが,時代の流れに応じて,「女性の保護」にも与するところもありうるパラダイム転換となったということは可能でしょうか。

少し脱線しましたが,このように,【軽症うつ病】は厳密な医学上の定義からいえば,現在使用されないかもしくは,【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード),さらには,【気分変調性障害】(気分変調症)と異なる軽度の障害を説明するために用いられます。ただし,【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)との区別を明確にするため,【気分変調性障害】(気分変調症)を含めた一連の障害を【軽度うつ病】とする語義も通用しています。この点は,今後,本稿以外でさらに広く知識を得るためにも,覚えておいてください。

いずれにせよ,うつ病はますます医学的研究の対象にあげられています。ですから,第I節で紹介した事例に心当たりのある方は,気軽にメンタルクリニックや病院の精神科などを訪ねてみるとよいでしょう。健康診断のように。

ところで,第I節で紹介した事例のうち,抑うつ気分を抱えながら,もしくは興味・関心を失いながら,さらに複数の事項に該当するという方はいらっしゃいましたでしょうか。その場合は,【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)についても知識を深める必要があります。項を改めましょう。

うつ病…怖くない病気です

[はじめに]

この度は,【うつ病】をテーマにお話をします。みなさまは,【うつ病】,と聞いてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。何か奇異なもの,延いては社会生活にそぐわないものとお考えの方も多いのではないでしょうか。確かに一昔前までは,「うつ病」は,医学的言説においてさえ非常にネガティブな,扱いにくく,確固たる「輪郭」をもたないものとされてきました。「うつ病は治らない」,であるとか「怠惰」など「個人の資質に帰せられる」といった言説が,医師の側からも発せられていたのは事実です。逆にいえば,このように社会全体が「うつ病」に「神秘性」を付与したことは,患者さん自らが「うつ病」を逆手にとり,自身を「特別な心の弱者」として,殻に閉じ込もってしまうような事態をも引き起こしていたといって過言ではないでしょう。

今この現在において,即ち本稿で問題とされるうつ病は,一昔前の「うつ病」とは異なるもの,延いては名称を変えたほうがよいもの,と筆者は考えます。というのは,普段の社会生活を営むうえで,誰しもが避けられない,「心と体の総合的な失調」が件のうつ病だからです。「うつ病は心の風邪」ともいわれますが,うつ病は,誰もが発症する可能性を秘め,また処置の仕様が確立されている病気なのです。今や,このうつ病は,医学の領域において事細かに「輪郭」が与えられている一途にあります。その一方で,社会的なケアという面では,制度的な枠組みが未だ整っていないというのが現状です。この社会的な受け皿を構築するにあたって必要とされるのは,何よりもまず,うつ病に対する社会的認識の改善です。このことを切に感じ,筆を執った次第です。

本文では,具体的にまず第I節で,うつ病発症の契機となりうるような症状の事例を挙げてまいります。続く第II節では,第I節の事例に即して,医学的に定義されたうつ病の「輪郭」を明示します。近年耳にする「うつ病は治る」という言説はいささか誤謬はあるものの,風邪から糖尿病などにいたるまでの病気と同じように,要は病状の程度に応じて処置の難易如何があるということが明らかになるでしょう。第III節では,実際の治療にあたって,診断から治癒までの経過を,患者さん及び,周囲の方々への注意点とともに整理します。第IV節で問題となるのは,うつ病を巡る医療・社会制度の実態です。家族のために,大切な人のために,うつ病患者さんが積極的に医療を受けることができるような受け皿の拡充が,今後の課題として立ち現れてくるでしょう。この課題を達成するうえで不可欠なのは,何よりも社会全体がうつ病に対して無知であってはならないということです。そこで第V節では,うつ病の社会的認知の促進に向けて,同病(に対する認識)の歴史的背景を探ることとします。

なお,【強迫性障害】は,うつ病とは異なる病気です。こちらについても,うつ病と同様の社会的な対応が迫られている領域ですが,本稿で扱うには紙幅の限界がありますので,言及するには至りません。ただし,今やインターネット上でも多くの情報が蓄積されていますので,是非ご覧頂きたいと思います。


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