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最新記事【2009年03月06日】

さて,第I節で色々と事例を挙げてまいりましたが,「いわれてみれば自分も該当する」とお感じになった方には,本項へご案内をした次第です。もちろん,だからといって件の症状即うつ病となるわけではありません。ただし,二週間以上原因不明の症状が続くと,うつ病の可能性は大きくなるということです。それでは,【軽症うつ病】の判断基準を知るうえで,まずは【DSM-IV】の【気分変調性障害】(気分変調障害症)の分類を整理しましょう。体系化すると以下のとおりです。

イ…抑うつ気分が終日続く。全体として抑うつ気分を感じない日よりも感じる日の方が多い。自覚症状あるいは,家族・医師など他者の観察に基づいて,二年以上の症状の経過がみられる。

ロ…抑うつ状態の経過において,以下の二点以上を伴う。
  1…食欲減退もしくは過食
  2…不眠もしくは過眠
  3…気力減退・疲労感
  4…自尊心の低下
  5…集中力の減退、もしくは優柔不断の高まり
  6…絶望感・危機感

ハ…以上の症状の二年間(以上)の経過(幼年・少年・青年期では二年間)において,症状が二か月以上現れなかったことがない

二…ハと同様の期間において,【大うつ病エピソード】(=【双極性障害】=【躁うつ病】)みられない。(つまり,【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)の判断基準では追究不可能)

ホ…【躁病エピソード】・【混合性エピソード】・【軽躁病エピソード】は不在。【気分循環性障害】の基準にも達していない。

へ…【精神分裂病】・【妄想障害】等の慢性的な【精神病性障害】の罹病と関わりなく症状が現れる。

ト…薬物使用や投薬などの体外的作用や,甲状腺機能低下等による体内疾患による症状ではない。

チ…症状が社会的領域における機能を低下させている。または著しい苦痛を伴っている。

医師がうつ病の診断を行ううえでは,その他の病気と同様に判断基準が必要となってきます。現在,国内で一般的に用いられているのが【DSM-IV】というマニュアルです。

【DSM-IV】は,【アメリカ精神医学会】(APA)が定義した【精神疾患の分類と診断の手引】であり,【The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders】の略となります。ちなみに【IV】は版数を示します。すなわち,現在までに4度の改訂をふまえているということです。2012年には【DSM-V】がパブリッシュされる予定です。なお,各版に【mini-D】との呼称をもつ携帯版も世に出されていますので,関心のある方は入手されるのもよろしいかと存じます。

この【手引】の内容を詳細に整理することには,本稿では限界があります。したがって,うつ病は,【軽症うつ病】と【大うつ病】に大別することができるということから始めます。多くは,【軽症うつ病】に分類されるケースが多く,治療も比較的簡単に処置できるところで、【気分変調性障害】(気分変調症)などとも呼ばれます。現在では,うつ病研究が進展の一途にありますので,広くカテゴリー化されるに至っています。逆にいうと,一昔前の「うつ病」は,重度の症状を指していたわけです。この症状は現在では,【大うつ病性障害】(大うつ病性エピソード)呼ばれるもので,後ほど紹介することになります。

前節では,うつ病に該当する心や体の「症状」を具体例とともに紹介してまいりました。個人の気質・性格についても簡単にうつ病との相関を指摘しました。本節では,そういった「症状」がどの程度のうつ病として診断されうるのかをみてまいりたくお話を進めます。

さて,本稿冒頭でも申し上げましたとおり,うつ病は「輪郭」のある病気です。即ち対処が可能なのです。ですから,風邪や肺炎と同様,症状にも重さ軽さの程度は付き物です。また,三大成人病や糖尿病と同様に,生活や延いては命に支障を来すこともありうるわけです。もちろん,重度のうつ病に悩んでいる方は,他の病気と同様に,社会的なケアが危急に講じられなければいけないところです。つまり,ここでいいたいのは,うつ病を決して「神秘的」な不可解な病気として片づけて頂きたくないということです。

さて,前節では,個々の「症状」に応じて,本節への道標を記しました。それでは早速,うつ病をカテゴリー化するとともに,それらの「症状」に応じた病状に案内してまいります。

うつ病…怖くない病気です

[はじめに]

この度は,【うつ病】をテーマにお話をします。みなさまは,【うつ病】,と聞いてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。何か奇異なもの,延いては社会生活にそぐわないものとお考えの方も多いのではないでしょうか。確かに一昔前までは,「うつ病」は,医学的言説においてさえ非常にネガティブな,扱いにくく,確固たる「輪郭」をもたないものとされてきました。「うつ病は治らない」,であるとか「怠惰」など「個人の資質に帰せられる」といった言説が,医師の側からも発せられていたのは事実です。逆にいえば,このように社会全体が「うつ病」に「神秘性」を付与したことは,患者さん自らが「うつ病」を逆手にとり,自身を「特別な心の弱者」として,殻に閉じ込もってしまうような事態をも引き起こしていたといって過言ではないでしょう。

今この現在において,即ち本稿で問題とされるうつ病は,一昔前の「うつ病」とは異なるもの,延いては名称を変えたほうがよいもの,と筆者は考えます。というのは,普段の社会生活を営むうえで,誰しもが避けられない,「心と体の総合的な失調」が件のうつ病だからです。「うつ病は心の風邪」ともいわれますが,うつ病は,誰もが発症する可能性を秘め,また処置の仕様が確立されている病気なのです。今や,このうつ病は,医学の領域において事細かに「輪郭」が与えられている一途にあります。その一方で,社会的なケアという面では,制度的な枠組みが未だ整っていないというのが現状です。この社会的な受け皿を構築するにあたって必要とされるのは,何よりもまず,うつ病に対する社会的認識の改善です。このことを切に感じ,筆を執った次第です。

本文では,具体的にまず第I節で,うつ病発症の契機となりうるような症状の事例を挙げてまいります。続く第II節では,第I節の事例に即して,医学的に定義されたうつ病の「輪郭」を明示します。近年耳にする「うつ病は治る」という言説はいささか誤謬はあるものの,風邪から糖尿病などにいたるまでの病気と同じように,要は病状の程度に応じて処置の難易如何があるということが明らかになるでしょう。第III節では,実際の治療にあたって,診断から治癒までの経過を,患者さん及び,周囲の方々への注意点とともに整理します。第IV節で問題となるのは,うつ病を巡る医療・社会制度の実態です。家族のために,大切な人のために,うつ病患者さんが積極的に医療を受けることができるような受け皿の拡充が,今後の課題として立ち現れてくるでしょう。この課題を達成するうえで不可欠なのは,何よりも社会全体がうつ病に対して無知であってはならないということです。そこで第V節では,うつ病の社会的認知の促進に向けて,同病(に対する認識)の歴史的背景を探ることとします。

なお,【強迫性障害】は,うつ病とは異なる病気です。こちらについても,うつ病と同様の社会的な対応が迫られている領域ですが,本稿で扱うには紙幅の限界がありますので,言及するには至りません。ただし,今やインターネット上でも多くの情報が蓄積されていますので,是非ご覧頂きたいと思います。


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