[V. 4] 社会学におけるうつ病(1)…デュルケムと『自殺論』
うつ病自体を社会科学が捉えた本格的な研究は,まだ蓄積が浅い状況です。一方で,重度のうつ病にもみられるように,自殺願望を抱くような精神疾患に対しては,古くから近代社会科学は,議論を展開していたようです。しかしながら,筆者の能力から,その議論の全てのを体系的にふまえることはできません。したがって,恣意的ではございますが,本稿との関係で示唆に富む古典をピックアップすることにしましょう。
わが国においても知られているのは,フランスの社会学者エミール・デュルケム[1858-1917]の『自殺論』でしょうか。なお,ここで社会学のタームを全て整理してデュルケムの『自殺論』を紹介するには紙幅に限界があります。したがって,噛み砕いて申し上げることにしましょう。
デュルケムが自身の思考活動を展開する時期は,ちょうどフランスが社会的混乱に陥った時期でした。この点は,世界史の教科書でもみて頂ければよくお分かり頂けるとおりです。彼の問題意識は,この崩壊した社会を改善することにありました。そのなかで彼の関心を惹いたのが,まさに自殺という行為だったのです。
自殺という行為を巡るデュルケム独自の着眼点は,この行為が個人の資質,つまり心理学的要因に帰せられるというよりもむしろ,社会的な要因に帰せられるものと考えられる,というところにあります。そうして,この自殺を防ぐためには,「社会集団を十分に強固にして,個人をもっとしっかりと掌握できるようにするとともに,個人自身も集団にむすびつくようにさせること以外に方法はない」『自殺論』(478頁)というのです。
なるほど,と賢くなった気がしますね。では,彼のアプローチでは,うつ病についてはどのような理解が可能なのでしょうか。項を改めましょう。