[III. 11] うつ病の治療(9)…うつ病患者さんのサポート
【薬物治療】・【医師との対話】・【セルフコントロール】の他に,うつ病の早期回復にあたって必要とされるのは,家族や患者さんと親密な間柄にある人による【サポート】=【思いやり】です。このような【サポート】に携わることになる人びとも交えて,患者さん=お医者さんとのコミュニケーションが図られるのが何よりのうつ病治療の手段ですが,第三者においては,【思いやり】が高じて,うつ病に対する誤解もなされているところです。本項では,うつ病患者さんを【サポート】するえでの注意点をみてまいりましょう。
まず第一に,しばしば耳にするところでもありますが,「頑張って」をはじめとする「励まし」は,「じっくり焦らず」を念頭に置いてうつ病治療にはそぐわないものです。とくに「頑張り屋さん」がうつ病を発症した場合には,「頑張りたいのに頑張れない」であるとか,「どう頑張ってよいのかわからない」という抑うつ感のスパイラルに陥りかねません。【サポート】で必要とされる【思いやり】は,「じっくり焦らず」,「温かく見守る」ことが一番です。
第二に必要とされる【思いやり】は,患者さんからなるたけ【思考や決断の機会を取り除く】ことです。過度・早急の思考や決断で心が疲弊するのが,うつ病に至る経路の一つだったのですから。ですから,家族なら「今夜はすき焼きにしましょう」,恋人なら「今日は…して遊ぼう」といったように,患者さんに同意を求めるような提案をして日々のコミュニケーションを成り立たせることが大切です。ただし,患者さんには,決断を迫られる機会はどうしてもやって来ます。休学・休職などが典型的な例です。その際には,急がせず,【決断の時期をゆっくりと待つ】ことが周囲の人ができる【思いやり】です。
第三に,患者さんの【生活上の負担を軽減する】ことです。うつ病にかかりやすい人には,真面目・几帳面・勤勉な性格の方が多く見受けられます。とくに,主婦の患者さんの場合には,無理を強いて家事・育児を頑張ってこなそうとして,ますます病状を悪化させることが十分に考えられます。日々のコミュニケーションのなかで上手に負担を分担・軽減するよう心掛けてください。
第四に,【外出や運動を無理強いしない】ことです。よく「心と体のバランス」を引き合いに出して,「心が疲れるのは,体が疲れていない証拠」として,運動を勧めるご家族もいらっしゃいますが,【薬物療法】中であれば,お薬が「体のバランス」を「じっくり焦らず」調整しているところなのです。まずは,【休息】を一番に考えて【サポート】をすることが求められます。
第五に,【抗うつ剤は決められたとおりに服用させる】ことです。周囲の方々,あるいは患者さんご本人におかれては,「薬に頼りがちになるのでは?」であるとか,「副作用が心配」という不安が生じるところですが,【薬剤療法】は専門家によって綿密に練られたスケジュールで行われるものです。また,本節第三項でも申し上げましたように,【次世代抗うつ剤】とされる【SSRI】及び,【SNRI】は,懸念すべき副作用も抑えられるように開発されたものです。したがって,うつ病の早期回復に向けては,医師の指示をしっかりと守らなければなりません。
最後に,冒頭の内容にいまいちど立ち返りますが,【サポート】をする周囲の方々も,受診に同席してあげるということです。たしかにうつ病の「診断」自体は,症状をある意味「データ化」し,[II. 2]で解説した【DSM-IV】が設定する基準を用いて判断が下されるものです。しかし「治療」で必要とされるのは,患者ご本人及び周囲の方々から寄せられる「情報」の他にありえないのです。できる限りの「情報」を蓄積することで,医師は初めて的確な処置を施すことができるのです。また,治療に向けた情報の共有も図られることになります。【三つ巴のコミュニケーション】が【薬物療法】の効果を最大限に発揮する契機となる次第です。
以上,本節では,実際のうつ病の治療にあたって必要とされる基礎知識と注意点について述べてまいりました。次に,うつ病を巡る医療・社会制度について節を設けることとしましょう。