[II. 5] うつ病予備軍…症候群
私たちが生活を営むこの社会には,不特定多数のうつ病予備軍が控えているようです。そのことは,医学的タームとはまた違って,以下に紹介する「…症候群」のような社会的に通用している言説のなかに見出すことができます。
例えば,【燃えつき症候群】。真面目な性格が災いしてか,とにかく懸命に仕事に打ち込み,心や体にストレスをどんどん溜めていくと,いつしか突然気力を失ってしまうというものです。第I節では,会社員Aさんが好例ですね。仕事だけでなく,家事に奔走した主婦Dさんにも同じことがいえますね。ひょっとすると受験勉強を頑張ったEさんにもこのような症候がみられたかもしれません。
【サンドイッチ症候群】というのは,上司と部下に「板挟み」にされて,ストレスを溜めてしまい,延いてはうつ病を患ってしまうという中間管理職特有の症候であるとされています。まさに,会社員Bさんのケースです。
【空の巣症候群】は,子どもが独立したり,結婚して家を離れたため,親が虚無感にとらわれてしまうというもの。典型的に主婦に現れるものとされています。Cさんの例にもありましたね。枠を広くすれば,ご老人Hさんにも適う症候であるといえましょう。
第I節では,事例を挙げることができませんでしたが,他にもうつ病予備軍を形成する契機がございます。まずひとつめに,【テクノ不安・テクノ症候群】。これは,ますます進化する電気機器や技術(携帯電話だとかPC上でのドキュメント・ピクチャー処理などですね。部屋にテレビ・ステレオ・エアコン・インバーター等々のリモコンが鎮座しているだけでも不安になる方がいらっしゃるとか。)に自らの適応力が追い付かず,そこからくる不安感がうつ病につながるというものです。最後に,【引越しうつ病】について。典型的なのは,ようやく新天地にマイホームを手に入れたにもかからわず,当地に馴染めずストレスをため込んでしまうという例です。
これらの通俗的な「症候群」をみるだけでも,うつ病とは,ごく当たり前の生活上のトラブルに即した,ごく当たり前の心と体の不調に過ぎないということが分かりますね。ただし,うつ病を楽観的に捉えてよいというのは,「全てのうつ病が簡単に治る」という意味においてではなく,あくまで他の病気と同様に,病状の重さ軽さはあれど,「対処を講じうる」という意味において理解されるべきものであるということです。他の病気と同様に,苦しんでいる方も沢山いらっしゃるということです。ここで一つ知っておきたいのは,普段の生活だけでなく,病気に起因するうつ病もあるということです。項を改めましょう。